軟式球場から打ち上がる花火を横目に見ながら、百八十度向こうの8番ゲートへ向かう足取りを速める。
本当は来るつもりではなかった。しかし、土曜の夜、私の手はほとんどひとりでにスワチケのブックマークを叩いていた。券売所を通過する。「本日のチケットは全て完売しました」の張り紙が降ろされたシャッターの上に貼り付けられている。当然だろう。チームの現状とは裏腹に今週は連日全席完売の大盛況。日曜日のゲームが同じ結果にならない訳が無い。
いつもは18ゲートから入ってしまうので、外周を半周もすると球場の熱気も相まってそれだけで汗が止まらなくなる。ようやく8番ゲートに辿り着いた私は、ちょっとした気恥ずかしさから軽く息を整え、チケットを取り出して入場門のお兄さんに渡す。そして、そのチケットに印字された座席、ではなく、すぐさま身を翻して4番ゲートをくぐり、外野席へと向かったのだった。
電車に揺られている時から考えていた。「今日もロクなことが無いんだろう」と。急な思い付きや無理な予定組みで神宮に来るときはいつもそうだった。"ロクなことが無い"というのは試合結果や内容がそうであることでもあるし、無用なトラブルや嫌な光景に出くわすということでもあるし、あるいは私が球場に来た目的が成就されない、ということでもある。果たしてこの日もそうだった。6回の表裏を外野の立ち見席で無為に過ごした私は、静かに内野へ、本来いるべき場所へとすごすごと帰って行くこととなる。
しかし、今日の不運はここまでで使い切ったということか、この日のスワローズはそれはもう良く追い上げた。着いた時には2-5だった試合が、イニング毎に追い上げて、7回に同点、8回に逆転。試合そのものに関して言えば、間違いなく今年の神宮で最上級に感情の昂ぶる展開となった。
そして、土曜日の夜に座席番号も何も確認せず(何故なら、ずっと外野に居座るつもりで)確保したバックネット裏2階の見切れ席もまた良かった。良かったというのは思ったほど急所が見切れておらず、試合観戦に不自由が無かったという意味と、端の席だったので色々と都合が良かったという意味であるが。とにかく、久々の2階席の居心地の良さと試合展開から、今日は純粋に野球観戦をしようと心を切り替えたのだった。
試合は長かった。結局比屋根がサヨナラ打を放ったのが午後10時半過ぎ。終盤は"息詰まる"と"辟易する"の両者の狭間を行き来するような、時間を贅沢に贅沢に使った攻防が繰り返された。ヤクルトは勝ったからいいし、私自身は翌日も休みなので問題ないが、月曜からまた働きに出る阪神ファンにとっては、ここまで戦って負けたのではたまったものではなかっただろう。外野席は流石に最後まで両翼ともほとんど席が空くことはなかったが、内野席は時が経つに連れて空席も目立つようになった(最も目立ったのは阪神の10回表の攻撃が不発に終わった直後の3塁側内野席の引き上げの波だったか)。夏休みとあって子供たちの姿も多く見られたが、この展開で途中で帰らなければならないのは辛いところだっただろう。
これで今季は神宮18試合目。再び観戦成績は9勝9敗の五分となった。ここまで●○○●●●○●○○○●○●●●○○と、よくもまあ綺麗に5割付近をフラフラ出来るものだ。今季は神宮以外にもよく脚を運んでいるので、このままなら2006年の自身年間最多現地観戦記録(27か28試合)を抜くことは可能だろう。当時と球場に向かうモチベーションの根源が"多少"異なるのは恥ずかしいところであるが…。