あでぃすでぃす

一つ文章を書くたびに寿命と社会的評価が削れていくおブログです。

甲子園球場であったけっこういい話

 

「あの、お声掛けしてしまってすいません、もしかして、中村選手のファンなんですか!?」

 

背番号52、中村悠平のユニフォームを着込んだ瞬間、後ろから興奮気味にお兄さんから声を掛けられた。

 

8月29日、阪神甲子園球場。今年3回目となる甲子園遠征に赴いた私は、(後述するある理由によって)今回は3塁側ブリーズシートのチケットを取り、ほぼ開門直後に入場した。平日のナイトゲーム、全席指定の甲子園だと、開門直後は当然内野の高い席ほど客入りは少ない。少ないというか、ほぼ無。

f:id:addis:20170831165254j:plain4時15分だとこんなもんだが、この日も内野の一部を除いて満員になっていた。3塁側はしばらく西日が差し込むのでなおさら暑い。

 

ところが、自分の席まで行ってみると、真後ろに、既に腰をドッカリと落ち着けて楽しく談笑している(当然)阪神ユニフォーム二人組がいたのだった。
はっきりいって(もう少し周りに人が増えないと、この二人の前でポツンと座ってるのは気恥ずかしいし面倒なことになりそう…)と考えてしまうコミュ障系の私は、しばらく場内を散歩したりヤクルトの練習を眺めたりして時間を潰しつつ、徐々に賑わいが出てきた4時半過ぎに席に戻り、傘を出したり中村ユニを着たりと戦闘態勢に入ったのだった。

 

と、その瞬間、冒頭の声を掛けられたのである。

またはっきりいうが(やめろーーー!阪神ファンに絡まれたくないんじゃーーーー!)と心の中で思いながらちゃんと笑顔で振り向き、「あっ、いや~、そうなんですよ~」と朗らかに応えつつ、やはり心の中では(オイ!アレか!?二言目には『中村って今年リードが終わってるって言われるやん?やっぱ最下位だと色々キツいやろw』とか馬鹿にするつもりか?そういう奴はぶっ殺…しはしないけど睨み付けてこの後全部無視するからな!?!?)

…などと、弱小球団ファン特有の被害妄想と僻み根性を抱えて相手の返答を待っていたのだが…。

「中村は同じ福井の選手なんで、ヤクルトの中では一番応援してるんですよ!」
「今日、僕たち福井から来てまして!」
「まさか、目の前に中村ファンの人がいてくれるなんて信じられないです!」

…ということだった。ごめん、である。

二人とも阪神のユニフォームを着ていたが、私に声を掛けてきた方は本当は中日ファンで、しかもヤクルトの中村が好き。試合中は二人で応援歌を歌ったし、本気で西田との争いを気にしたり、試合中もキャッチャーフライの捕球一つに喜んだりしていたので、単に同じ福井だから知ってる程度では無く、本当に応援していたんだと思う。ちなみに着ていた阪神のユニは赤星だった。いつのだよ。
もう一人は阪神ファン。今回はこちらの人の希望で一緒に福井から甲子園に来たようだ。ここでは仮に、中村好きの方を"中村さん"、もう一人を"番長"と呼ぶことにする。年齢は中村さんが30歳くらい、番長が42歳くらいだった。

で、こうなると楽しいもので、割と3人で盛り上がった。野球はもちろん、競艇好きで風俗好きという共通点もあり、三国競艇場のことを話したり、雄琴のことを話したり。
さらに、たまたま私にも福井出身、というか今福井に住んでいる大学時代の後輩がいるので、「そいつが今武生に住んでて、去年そこで飲んだんですよ~」と話したら、何と番長も武生に住んでいることが判明したり。

f:id:addis:20170831171630j:plain試合はここから。今回の話とは関係ないけどブリーズシートの上の方って非常に試合が観やすい。

 

そして、番長がビールを買うときにメッチャ売り子ちゃんに絡んでて、とても楽しそうにしていたのだが、自分のアレを持ち出すと面倒な話になりそうだったので、ひとまずこの件に関して特別なリアクションは取らないことにした。
1杯目を買った後に「20分後に買うからまたココ来いよ~!」って言ったら本当に20分後に来たりして、まあ売り子ちゃんとの交流を楽しんでいた。あと、その流れで知ったのだが、甲子園は売り子の写真撮ったら売り子がクビらしい。番長が写真撮らせてくれって頼んだら、「そういうことするとクビになっちゃうんですよ…ほら、あそこの人とかが常に売り子のこと見張ってて…。ビール注いでる時にさりげなく撮られるとかなら言い訳が効くんですけど…」とのこと。つまり、目線向けたりピースしたり、もちろん客とのツーショットなんかもNGという訳だろう。
ちなみに、三級売り子ヲタの私の所見によると、番長は売り子ヲタとかそういうのではなく、ただ単にコミュ力の高い女好きだと感じた。めっちゃこの日もキャバクラ行きてぇって連呼してたし、そういうのは慣れているのだろう(褒めてます。羨ましがってます)

 

こんな感じで、いちいちエピソードを書いていてもキリが無いのでまとめると、

「とても楽しかったし良いご縁が出来ました」という話である。

試合後には中村さんと連絡先を交換し、「東京(神宮)に来るときは絶対連絡して下さい!案内しますから!」という約束をした。一旦は試合後に一緒に梅田で飲む流れになりかけたが、そこは両者の都合が合わず(私は心斎橋のスナックに行かなければならなかったし、番長は酔い過ぎていた)。でも、甲子園で出会った東京もんと福井県人が梅田で語り合う、良いシチュエーションだし勿体なかったとも思う。あるとすれば来年とのことだったが、また会えるだろうか。

f:id:addis:20170831171416j:plain翌日、「尼崎競艇に来てます!」というラインが来た。映っているのは番長。二人とも300円ずつ負けたらしい。私はこのラインを住之江競艇場で受け取り、気合を入れて10万負けた。

 


ところで、試合中、中村さんから「そんなに熱狂的なファンなのに、あそこ(レフトビジター応援席)では観ないんですか?」と聞かれた。

困った。

とりあえず、「神宮だったら常に外野自由なんですけどね~、今日は、ちょっと、まあ諸事情がありまして~……(^^;」と答えたら、番長が「オイオイその諸事情って興味あんな!教えてくれよ!」と食い付いてきていよいよ困ったが、直後に誰かがヒット打って話が途切れたので助かった。

その、諸事情である。

察しの良い、(しかもここまで読み進めてくれている)読者の中には、答えをある程度予測できている方もいるかもしれない。

売り子である。

今年の3月7日、甲子園でのオープン戦で、私は「達川」という売り子に出会った。甲子園は売り子が名札を付けて歩いているので、これは別に自分で聞いた訳ではない。ていうか聞くなら下の名前を聞くし、相手も下の名前を答える。

とにかく、その達川ちゃん。かわいい、やさしい、気立てがいい。結婚したいレベルで気に入った。甲子園の売り子は何故か「結婚したい」という方向の好意を抱くことが多いが、何故なのだろうか(例えば、東京ドームの売り子だったらカワイイ!とか遊びたい!とか思っても、結婚したいとは思わないであろう。え?分からん?)。今後も研究の価値がある事象である。

それで、その日は大層飲んだ。どれくらい飲んだかというと、新大阪駅で酔い潰れて乗る予定の新幹線を寝過ごしてぷらっとこだまで取ったチケットをパーにするくらい飲んだ。

これくらい浮かれて

名前をつぶやく暴挙を犯し

寝過ごした。

 

まあ、それはいい。とにかく、その時に「シーズン中は3塁側のブリーズシートとかを回ってる」と聞いたので、今回は敢えてわざわざ高めのブリーズシートに座ったのである。ハッピーな気分で今年の日程を調べたら「シーズン中に甲子園に行けるのは8月29日だけ」と判明して静かに絶望したのもいい思い出だ。

 

…ところが、現実というのは悲しいものである。今でこそハイテンションで達川ちゃん大好き文章を綴っているが、半年も経つと、感情は薄れるもの。実は、甲子園に着いた時は「オープン戦の時の子はいるはずだけど…名前何だっけ?」くらいのテンションだった。(達川ちゃんとツイートしたことも忘れていた)
しかも、試合が始まっても、見つからない。それも、"出勤していない"のか"相手の顔を覚えていない"のかの判断も付かない。甲子園に行くときは3塁側ブリーズシートという約束だけは刷り込まれているのに、当の相手に対する気持ちがコレではもうダメである。
中村さんに聞かれた時に「諸事情」としか言えなかったのも、下手に「お気に入りの売り子ちゃんがいるんです!!!」と恰好を付けて、相手のことが分からなかったり、むしろ相手が自分のことを分からなかったり、そもそも会えなかったりしたら、風呂敷広げ損の赤っ恥になっちゃうから明かせない…という側面があったのだ。もう、今回の旅は売り子に会う会わないなんかよりイベント盛り沢山だし、諦めて静かにしてよう、そう考えていた。

 

しかし、奇跡が起きた。試合開始から1時間ほど(入場から数えたら3時間ほど)経ち、普通に試合に目を向けていた時、内野の最前列付近、3塁ベース近くを歩く売り子が目に入った瞬間、電流が走った。
それまでは本当に気が付かなかったのか、それともたまたま序盤は別のエリアを回っていたのかは定かではないが、とにかく、見つかった。

そうなればモードチェンジである。モードチェンジとは、ヤクルトファンから売り子ファンへのチェンジングである。この行、全く記述する必要が無い。

とにかく、自分の前を通ってくれるように祈る。呼び損ねることのないよう集中する。

来た。手を挙げる。名札をチラ見。「達川」。(そうだ!達川だ!達川ちゃんだったわ!完全に思い出した!間違いない!!!)

「ありがとうございます!」

「……」

「650円です!」

「……」

「……」

「……」

「……」

「……」

「ありがとうございました!」

「あー、どうも。」

「……」

「……」

踵を返し、去っていく、達川ちゃん。

 

あれー?
覚えられてなかったのかな?
そ、そうだよね…。半年前に1回会っただけだし…。
そもそもコッチがほぼ忘れてたのに、相手の方が覚えてくれてるなんて虫が良すぎる考えだよ…。
でも、あの時はあんなに飲んだし…希少なヤクルトファンだし、前と同じ中村ユニ着てるのに…。
いや、やっぱり無理だったんだ…。思い出せただけで、会えただけで良かったよ…やっぱここにいるアサヒの中では一番かわいいわ…。

 

 

 

、である。

 

 

 

死んだので、死も恥も怖れることが無くなり、達川ちゃんから2杯目も買った。

「ありがとうございます!」

「……」

「またありがとうございます!ていうか、やっぱりそうですよね!」

「??」

「この前も買ってくれた方ですよね!」

「!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

 

 

あのですね。一杯目はですね。
二人とも
「多分そうだと思うけどもし自分の勘違いだったり相手が覚えてなかったら恥ずかしいから何も言えなかった」
という、全く同じ感情を共有していたようでしてね。

 

f:id:addis:20170831174715j:plain

 

何だよ。

死、じゃなかったよ。

落としてから上げるパターンはやめろって。心が破裂するから。

 

あとはもういいでしょう。ていうか、1杯目に行きつくまでに時間がかかったので3杯しか買ってないし。

今回、かなり惜しみなく書いてますが、達川ちゃん、今年で引退&就職なんだそうですよ。ていうか、この3連戦が最後とすら言っていたような気がする(うろ覚え)。なので、次のお話は無いんです。

だから、3杯目の時に「最後に会えて本当に良かった」と言って別れました。向こうも「もう一回来てくれたら嬉しいなって思ってました」って言ってくれました。あと「ヤクルトのユニフォームが似合う」って言われました。

うん。

うーん。

これだから、やめられねぇぜ…。この"道"はよぉ…!

 

達川ちゃんの前途に幸あれ。

 

 

 

…!!!

あ!!!!!

いつの間にか話が逸れました!!!!!

中村さんと番長、ありがとうございました!!!!!また神宮で!!!!!

以上、甲子園であったけっこういい話でした!!!!!いい話って前半の方だから!!!!!では、さようなら!!!!!