あでぃす「あのさぁ。やっぱおかしいじゃん。ビールだったらキリン、アサヒ、サッポロ、あと何だっけ。サントリー?サントリーって何ビールだっけ?あープレモル。プレミアムモルツがサントリーね。神宮にないから。まあそれはいいんだけどビールってこういう巨大なメーカーがあって、そこが大資本パワーで大工場ドーンで大量生産してさ、それがコンビニやスーパーにズラりと、ズラズラのズラりと圧倒的に並ぶ訳じゃん。で、居酒屋とかでも普通にどれかのメーカーの普通のビールが出てくるじゃん。なのにさ、そのビールに対して『工場で大量生産された安くて何のこだわりもないクソマズ下級アルコール』とは言わないじゃん。それらがビールの""スタンダード""だと受け入れられてるワケだよね。でもさ、なのにさ、聞いてる?違うじゃん。日本酒の話になるとさ、コンビニで売ってるワンカップとか鬼殺しとか、スーパーに並んでる紙パックのデカくて安い日本酒とか、ああいうのがキリンとかアサヒとかプレモルとかと同じように生産量とか消費量では大きいシェアを占めてるはずなのに、それらは""安くてマズい最下層の日本酒""という扱いをされたり『ああいう酒のせいで日本酒に苦手意識を持たれたり、日本酒の本当の魅力が伝わらなかったりする。存在が害悪』とか言われたりするじゃん。日本酒が好きだったり詳しい人ほどね。ビール好きな人が『キリンが好きとかアサヒが好きとか素人。私が本当に美味しいクラフトビールを教えてあげますよ』なんて言わないのにね。それに、まともな居酒屋に行って日本酒を頼んだらだいたいはちゃんとしたプロフィールの付いた地酒が出てくるよね。どっか県の何とか酒造の『○○』の雄町純米生酛生原酒でございます、つってね。それが『本日の日本酒はキクマサピンです!』って言いながら店員がピンクの2リットル紙パック抱えてきたらブチ切れるよね。ね。この差って何?みんなキリン一番搾りは"王道"として普通に受け入れて、これがビールだよね、で飲んでるのに、ワンカップ大関は『ああいうのはちょっと…』って認められてないの何なの。いや、別に人類に安い日本酒を飲んでもらいたい訳じゃないんだけど。そういう話ではなくて。実際、まあ美味しかはないし。でもその一番シェアが大きいものに対する評価の違い、構造上の不自然さであったり、なぜこうなっているのかというのを」
まともな感性を持つ者「まずいもんはまずいからでしょ」
まともで冷静な指摘をする者「紙パックのクソ酒と比べる対象はビールじゃなくて発泡酒なんじゃないのかな?」
あでぃす「そうですね」
日本酒の『生産量』って、例えば令和4年だと
1位 兵庫県 91,802kl (シェア28.0%)
2位 京都府 52,047kl (シェア15.9%)
3位 新潟県 30,086kl (シェア9.2%)
らしいんですよ。でも、ちゃんとした日本酒がメニュー表にたくさん並んでいるようなお店……
こういうお店に、兵庫の日本酒ってあまりないですよね。シェアが28%ということはメニューに日本酒が30種類あったらそのうち9種類くらいは兵庫でもいいのに。
これ、なぜかというと『1位 兵庫県 91,802kl (シェア28.0%)』を支えているのは、灘五郷と言われる地区にある、巨大な酒蔵、いや酒工場を抱える超大手酒造たちが生産するお酒。
すなわち、冒頭で喚いていたような、コンビニやスーパーにドカドカと並ぶ普通酒だからなんですね。例えば、
白鶴まる!
…の白鶴(生産量2位)とか
ワンカップ大関
…の大関(5位)とか
キクマサピン(なんか近所に置いてなかった)
…の菊正宗(7位)とか
赤鬼青鬼の鬼ころしでもお馴染み、日本盛はよいお酒~
…の日本盛(8位)とか
白鹿とか、白鷹とか、沢の鶴とか、
ここらへんが全部、兵庫、灘。なんか似たような名前で正確に見分けはついてないし主にスーパーとかコンビニとか"清酒"としかメニューに書いてない安い居酒屋とかでよく見る日本酒たち。
これらを日々大量に生産して、日本全国の最も皆さまのお手に届きやすいところに供給しているのが、灘(と伏見)な訳ですね。
ちなみに、京都伏見のそういうのはしょ~おちくばいの松竹梅とか、きざくら!の黄桜ですね。あと、月桂冠。これも超強い。
そして、なんか嫌われている。
ワンカップとか900mlで600円の紙パックの日本酒を飲むのは真っ昼間から公園でフラフラしてる汚ったねぇ野球帽被ったジジイとか、平日の競艇場にいる歯のないジジイとか、さくらひろしとか、変態糞土方と浮浪者のおっさんとか、そういうもんだと思われている。
兵庫と京都で日本酒の製造量ほぼ半分って、こういうこと
ただ、個人的には日本酒をちゃんと知っててちゃんと好きな人ほどああいう酒を忌み嫌うのって、好きじゃないんですよね。なぜなら、自分が何でも飲めちゃうから。
「ちゃんとした日本酒を知ると、もう偽物の酒は飲めないよね」
じゃないんですよ。飲めるよ。飲めよ、とはとてもじゃないけど言いませんが……
あと、巨大な工場で色々混ぜたり加えたりしながら日本酒を作ってる酒造会社、別に酒造りが下手な訳でも舐めてる訳でも情熱を失ってる訳でもないと思うんですよね。むしろ、あれだけの設備と歴史と経験があったら、信州亀齢とか寒菊より美味しい日本酒だって余裕で造れるでしょ。実際作ってるみたいだし。でも、大手酒造メーカーと小さな酒蔵って戦っている舞台が違うから。生産量とか値段とかクオリティとかのボーダーを調整しながらやってるから水で薄めたり添加物スッ…ってしたり何か今は違うと思うけど昔まことしやかに囁かれていたような悪さをしてたかもしれなかったりなわけで、世間には「別に生産量が少なくて高くて美味しい日本酒をありがたがって飲みたいわけではありませんけど」という人もたくさんいるし。
……という気持ちを以前から抱えていた私は、大量生産の日本酒と向き合うために、実際に灘の酒蔵を巡ってみることにしたのであった。
今回の灘五郷巡り、大石駅からスタートしたんですが、ちゃんと観光資源化してるんですよ。中身はともかく日本で一番たくさん日本酒を造ってる地域ですからね。
この地図は全部徒歩で行くルートを示してくれてますが、さすがに途中で電車に乗ったりしたし、見学できる施設がない酒蔵は飛ばしたりしてます。
先に書いておくと、『沢の鶴』と『白鶴』と『菊正宗』と『白鹿』と『日本盛』と『大関』に行きました。あと白鷹となんかの目の前を通った。結構ホントに至るとこにある。
沢の鶴。
灘の酒蔵が、どこも歴史があって資産があってなおかつ大企業である一つの証明として、どこも資料館とか博物館とかを持ってます。
ミュージアムショップ。朝イチで行ったため客が私一人しかおらず、というかおそらくこの日1番手の客で、店のおじさんにとても親切に丁寧に色々教えてもらえました。
資料館はおそらく昔実際に使っていた酒蔵なんだと思いますが、今はザ・工場でザ・生産がされているようです。
次。白鶴。確かに知ってるロゴ。
資料館併設。
資料館となっている旧酒蔵(多分)と、後ろにそびえる白壁の大工場のコントラストよ。
菊正宗の工場部分。この日の頻出感想「でかいタンク、めっちゃある」
菊正宗は酒造記念館。ここまで沢の鶴、白鶴、菊正宗と見てきましたが、驚くべきことに博物館エリアの中身が全て同じです。江戸とかそういう時代の『日本酒ができるまで』をその時代の道具とかとともに解説したり、そういうやつ。「さっきも見た」を1日で4巡しました。なので多分博物館要素の見学は、任意の1か所でいい。
白鹿にいく途中で通った白鷹。白って付いたら灘系なのでしょうか。
白鹿の酒ミュージアム。ここは毛色が違って美術館というか博物館というかそういう系統。しかも酒じゃなくて雛祭りの展示とかしてた。
と、思いきや、さっきのは酒ミュージアムの『記念館』サイドで、すぐ近くに『酒蔵館』サイドもあった。こっちは4度目のデジャヴ。
それでですね。すごく個人的な話になるんですけど。小3から小6まで西宮に住んでて、社会科見学でどこかの酒蔵の資料館に行った記憶があったんですね。で、沢の鶴から菊正宗まで「ここか?記憶と違うか?でも内容全部同じだしな…」と当時のことを思い返してたんですが、
おそらく、白鹿の酒蔵館でした。小学生の時に行ったの。この門をくぐった瞬間に「ここだっっっっっっ!!!!」ってなった。すごい。
ゴミ箱に美を護るで護美って当てるの、やるなぁ、と思ったんですが、近付いてみたら封鎖されてて美を護る役割を失ってた。
これは、見学できる施設があるのかと思いきやレストランと売店とガラス作り体験ができるスポットしかなかったので瞬時に退出した日本盛の拠点。
あまりこういうことを書くのはお行儀が良くないかもしれませんが、この日に行った諸々のミュージアムショップとか売店とかのうち、ここだけ自社製品にこだわらず獺祭をドーンと売ってて、誇りないんかと思いました。
大関は『総合研究所』でした。ふもとにお土産屋さんがありました。
本日はこれにて完走。
だいたいこの絵の左端から右端まで横断した感じですね。
これで、(生産量的には)日本の酒の2割程度を知ったことになります。日本酒マスターです。
見学した酒造では、それぞれあんまり東京のコンビニやスーパーでは見ないやつを少量ずつ買いまして。
右端のハクツルの白青の方。日本酒への耐性や寛容さがない人間を一撃KOする味がしました。ビックリしたね。ポリバルーンみたいな風味でした。
真ん中のは1997年に造ったという沢の鶴の古酒なんですが、吟の杜に持ってったので2口くらいしか飲めませんでした。
では。
こういう酒、愛していきたい。
さようなら。