他人たる夫婦が半日前にセックスした布団で寝るということは、ほとんど不倫と呼ぶべき行為ではなかっただろうか。
…まず、この一文には誤解を与える余地がある。釈明しておこう。"寝る"というのは、何の比喩も含まない、布団をかぶってスヤスヤと睡眠を取るという行為を指している。また、その時、その場には、残念だが、私と夫婦の"夫"の方しかいなかった。一般的に、男が二人で布団を並べて寝ていても、その先にイベントは発生しない。もちろん、一般的でない場合はその限りではないが、あいにく両者ともそういう意味では一般的であると推認されている人間なので、やはり"寝る"という言葉に"寝る"以上の意味は発生しないのである。
その日、部屋に入ると、布団が二組敷いてあった。まさか、泊まると分かっていたから事前に準備してくれたの…?気が利く…好き…!
とは全く思わなかった。明らかに一定期間以上敷きっぱなしの雰囲気があったからである。そして、何となく布団や枕の色合いから、左は新婦が使用しているそれで、右は新郎かつこの家の居住者かつ横にいる野郎の使用しているそれなのだろうと理解したからである。
…いや、なんにせよ有難い。"他人の家で寝るときは床に直"でお馴染みの私が敷布団と掛布団と枕の3点セットを恵んでもらえるなど、空前絶後の幸福なのだ。
と、心の中で感涙している最中、横から飛んできた言葉が
「その布団で14時間前にセックスしたわ」
であった。
そんなマル得情報は、いらない。
人は、こういう場面の当事者となった時、どういった感情を用意すればいいのか、ちょっと困る。どういう反応をするのが人類としての正着なのかも、分かりかねる。
仕方がないので、気の利いた返答はせずに、寝転んだ。
すると、全く、何の匂いも、しなかった。
クーラーガンガンに付けて、それほど野性的なソレでもないのかなぁと思った。
でも、枕も全然全く何とも一切匂いがしなかったので、きっと奥さんは気を遣っているというか健康的というか清潔なんだろうと思った。
そんな気を遣っているというか健康的というか清潔なスーパーウルトラ美人の奥さんが普段存在しているポジションで寝てごめんなさい。
ごめんなさいというか、後で「なんか布団臭いんだけど!?誰連れ込んだんだゴルァ!?」って怒られてないか心配です。いや、どうあがいても少年の臭いしか残してないから大丈夫か。
※"におい"には"匂い"と"臭い"があるが、私は男女が半日前にセックスした布団に関して"匂い"を期待したので本文中でも"匂い"を使用しています。